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新規事業の領域選定、「なんでそれうちでやるの?」に答えられますか? - Bond | 新規事業のアイデア創造、PMFまでの検証支援

新規事業の領域選定、「なんでそれうちでやるの?」に答えられますか?

2024年01月17日

新規事業開発をするにあたって、攻めるべき領域が会社方針として策定されているケースは稀です。そのため、事務局と担当者が試行錯誤しながら領域選定する必要があります。何かしらの縛りがあれば選定のヒントになりますが、それさえないケースも多々あります。今回は、そういったケースに対しての思考アプローチを紹介します。

1. 会社のビジョン・中長期経営計画から軸を1つ定める

アイデア創造の基盤となる、アイデアの方向性や最低限の制約を定めるために、会社の方針とある程度の整合性を保つことは大変重要です。会社の方針は、ウェブサイトのビジョン・ミッションのページや、中期経営計画などに記載されているので、まずはそちらを参照しましょう。

3要素で会社ビジョンとの整合性を整理する

会社のビジョンとの整合性は、下記3つの側面から整理することができます。このうちどれか1つ以上と合致していることが望ましいでしょう。

ただし、会社のビジョンはかなり抽象度の高いものになっており、こじつけすればなんでも、何かしら合致するということが少なくありません。そこに関してはある程度の具体性を持たせた上での合致をした方が社内の合意形成が得られやすいでしょう。

2. 既存事業との関係性・距離を明らかにする

既存事業との距離が、「どのような方向性で」「どの程度」離れているのか、を把握することは極めて重要です。既存事業と近しいものは往々にして、既存事業でやるべきである、または新規事業として魅力に欠ける、と判断されます。一方で、距離が遠すぎると経営層が及び腰になり、いざという時に手の平を返される、ということもあり得ます。

新しい市場ではなく、新しい製品・サービス・ビジネスを創造する

会社方針に対しての距離は、2つの軸から考えると整理しやすいです。1つ目が製品軸、2つ目が市場軸です。この考え方は経営学者イーゴフ・アンゾフが考案した「アンゾフのマトリクス」としてよく知られています(下図)。新規事業開発のメンバーには、基本的に「製品軸での新規制」、つまり下記の画像の右側の動きが求められます。

「市場浸透戦略」のエリアは既存事業に任せる部分。また、「新市場開拓戦略」も既存事業または事業部の新規事業として行うことがほとんどでしょう。この領域を新規事業開発で挑戦しようとすると、経営層からは「退屈だ」とみなされるリスクが高まります。

そのため、ご自身の検討は「新製品開発戦略」を行ってそれを既存顧客に提供するのか、「多角化戦略」に該当するのかをまず整理してください。新製品開発の場合はターゲットユーザーが既存顧客になりますので、かなり領域が絞られることになるでしょう。多角化の場合のアプローチに関しては別の記事でご紹介します。

3. PEST分析で市場機会に対する洞察を得る

上記の工程を経て、かなり大雑把な制約を得ることができました。ただし、現状では領域選定の実行まではかなり距離があります。現状得られた制約というのは、例えば下記のようなものになるでしょう。

  • ”誰の”について整合性を取る場合
    • 製造業をターゲットにする
    • ターゲットは既存クライアントでも、新規のターゲット層でも良い
  • “何を”について整合性を取る場合
    • 情報セキュリティ課題をターゲットにする
    • ターゲットは既存クライアントでも、新規のターゲット層でも良い
  • “どうやって”について整合性を取る場合
    • 小型化した高度なIoTデバイスとデータ分析技術を活用する
    • ターゲットは既存クライアントでも、新規のターゲット層でも良い

かなりふわふわしていますが、一本軸が通ったこと、既存事業との距離感が明確になったことは非常に大きな前進です。ここから、領域選定を具体化するためにPEST分析を行います。

全体の構造理解と、ビジネスチャンスの発見をゴールにする

PEST分析の目的は、市場の変化を知ることで、「商機」を見出すことです。一見ネガティブな変化にも商機が潜んでいることがあります。例えば世帯あたりの子供の数が減少していると仮定して、子供の数が減ることは市場規模が減少するのではと思われるかもしれませんが、もしかすると子供一人当たりに対してかけられるお金や時間が増えることで新しいビジネスチャンスが生まれるかもしれません。こういった発見のためには、人口減少や少子高齢化という既知の情報だけでなく、地域ごとの差、親の年齢による差、世帯年収による差、その他とにかく大量の情報から詳細に観察する必要があります。

PEST分析のために、統計資料、白書、シンクタンクの調査資料など、とにかく幅広い資料を収集しましょう。当然ですが、何か変化が起こる(例えば世帯あたりの子供の数が減る)裏には、その原因、構造が存在しています。それについても同様に資料を収集し、変化の構造について解像度高く把握、理解することが求められます。この実現のためにはPDF資料を50個、100個、200個と収集して読み解く必要があるでしょう。

この作業を行うことで、対照した市場全体の構造、現状、起こっている変化と、そこから生まれるビジネスチャンスに対する仮説を得ることができます。

4. まとめ:この事業を我々がやるべき意義と目的は…!

ここまで整理できると、

  1. 会社ビジョンとの整合性
  2. 既存事業との距離の整理
  3. その上で選定されたキーワードにおける社会変化と商機

という3段階で上長に対して説明することができます。例えば下記のような内容になるでしょう。

“会社のビジョンにある通り、我々は日本の製造業を支援することで、モノづくり大国の基盤を支え、豊かな社会に貢献していきます。新規事業開発室のミッションとして、新規サービスの開発を目指します。日本のものづくりは過去20年、中国を中心とした工賃の安い国々にその拠点が移ったことで空洞化し、設備の老朽化や人材の流出が顕著です。一方で、円安や、工賃の安い国々の通貨上昇や人件費上昇により、製造拠点の日本回帰が起こると予想されます。この変化に対して発生してくる課題に対してサービス開発をしていきます。”

現状ではまだ、そこにある課題については仮説ベースで検証されていない状態で構いません。ただし、仮説は持っておくようにしましょう。ここまで調べることで、何かしら課題の仮説が浮かんでくるはずです(ただし、その仮説はおそらく9割以上の確率で外れているでしょう)。

構造を把握しておくことの重要さ:上長レビューに耐える

ここまで説明をすると、上長がしてくるレビューとしては「製造拠点の日本回帰以外にも重要な社会変化や商機があるのではないか」というものになる可能性が高いでしょう。確かに他にも、世界水準の環境対策をした工場にコンバートしていくこと、経営者の高齢化に伴う後継者問題など、重要だと思われる社会変化と課題は様々発生するはずです。
(場合によっては「製造業に軸足を置くことはやめよう、会社ビジョンのうち「誰の」ではなく「何を」または「どうやって」の方に軸足を置いてくれ」というオーダーが来ることもあります。この場合はPEST分析の作業は徒労に終わりますが、必要な作業だったと捉えてください。)

そのような指摘があった時、「なんとなくそこに興味関心が湧きました」という回答はNGです。また、「実際工場に話を聞いてみて、そういった声がありました(ただしn=1)」のような回答も避けるべきでしょう。理想的なのは「この領域で起こりうる重大な変化として、A、B、Cがあります。それぞれのメリットデメリットをこのように整理しました。それぞれ詳細に調査した結果変化する可能性がありますが、現状ではA(この場合は製造拠点の日本回帰)が、このような理由で最も、今注視すべき社会変化であると判断しました。」という回答です。

ここまでできると、続いてはその領域において、あなたが持った課題仮説が本当に存在しているのか、その課題は本当に深刻なものか、より深刻で重要な課題はないのか、ということを検証していく作業に移っていくことができるでしょう。

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